2024年1月1日より船舶輸送がEU-ETSに含まれることにより、その実務的および契約上の影響が注目されています。契約上の解決策を見つける必要性に応えて、BIMCOは3つの航海用船契約条項およびBIMCOの船舶管理契約に関する条項からなる一連の条項を発表しました。

これらの条項には、既に発表されている定期用船契約用の排出量取引制度枠 (ETSA)条項2022に対するBIMCO（ボルチック国際海運協議会）排出量取引制度枠条項に追加されるものです 。BIMCOの新条項は、EU ETSを含む排出量取引制度（ETS）、航海用船契約と船舶管理契約のそれぞれにおける費用と責任配分の明確化を図り起草されました。

BIMCO条項

1) ETS – SHIPMAN 排出量取引制度枠条項 2023

本条項の目的

本条項は船舶管理契約に適用され、ETSの排出枠の取得、譲渡、償却にかかる費用と責任範囲を船主と傭船者の間で定めることを目的としています。 BIMCO SHIPMAN 2009年契約で使用できるように独立した条項として発行され、2024年に発行予定の最新BIMCO SHIPMAN契約に組み込まれる予定です。

この条項は、(i)船主がETS準拠の責任者である場合、または(ii) 管理者がETS準拠の責任事業体であるという2つの状況に応じています。

責任事業体としての管理者

(i) EU ETS における位置づけ

当事者が管理者が EU ETS準拠の責任事業体となることを選択する場合、欧州委員会実施規則(EU)2023/2599では、管理者がEU ETS準拠の責任を船主から移譲されていることを明示的に示す署名済みの文書を関連管理当局に提供することが求められています。 かかる文書を提供できない状況では、船主がEU ETS義務の責任事業体とみなされます。 したがって、EU ETS準拠の責任を船舶管理者に移譲することを選択する船主は、欧州委員会実施規則(EU)2023/2599に従って明示的な委任が与えられていることを確認することが重要です。特にBIMCOは、EU ETSとその条項への影響に関するこの問題を強調するために、条項の冒頭で健康上の警告を提供しています。

(ii) 船主から管理者への排出枠の譲渡

船舶管理者が遵守の責任を負う場合、(b)(iii)項は、船主が翌月の船舶管理者の書面による見積りに基づいて排出枠を譲渡することを規定しており、前月の排出枠の継続的な調整が行われ、前回の過不足分を相殺します。

船主が排出枠を譲渡する期限を設定するのは当事者に任されています。この期間に合意するにあたって、傭船契約のETS条項に従って船主と傭船者との間で合意された期間を考慮する必要があります。

この条項に対するBIMCOの説明注記には、 定期傭船契約用のBIMCO排出量取引制度枠 (ETSA)条項2022 が傭船契約書に組み込まれている場合、 ETS – SHIPMAN排出量取引枠制度2023(b)(iii)項 にある排出枠の譲渡時期は、2つの条項が一致するように、管理者の書面による要求の受領後少なくとも45日である必要があると記載されています。 船舶管理契約と傭船契約内のETS条項が一致していない場合、船主は傭船者から同じ排出枠を受け取る前に、船舶管理者に排出枠を譲渡する必要がある可能性があります。船主は、傭船契約書の下で許容される時間延長の可能性を考慮して、エクスポージャーを制限するために傭船契約チェーンの上下両方でETS条項に同意する際にはこの点に留意してください。反対に、船舶管理者はエクスポージャーを制限するためにより短い期間で合意することを検討している可能性もあります。

(iii) 経済的保障

船主が排出枠を譲渡する代わりに、(b)(vi)項では、当事者が代わりに経済的保障に同意できると規定していますが、そのような保障の形式と性質については別途交渉する必要があります。

終了

また、(d)項に基づき、いずれかの当事者が同条項に基づく義務を履行しない場合には、相手方に通知を行った上で船舶管理契約を即時終了するという選択肢もあります。EU ETS違反が相手方に及ぼす影響を考慮すると、これは船主と船舶管理者の両方にとっての安心材料となり得ます。たとえば、船舶管理者が義務に違反した場合、船主がその船舶をEU港から追放される可能性があり、また船主が義務に違反した場合には、船舶管理者に重大な信用リスクが生じる可能性があります。

2) ETS –Emission Scheme Freight Clause for Voyage Charter Parties 2023

航海傭船契約に関する3つのBIMCO ETS条項の1つ、 ETS – Emission Scheme Freight Clause for Voyage Charter Parties 2023 には航海のための排出枠の償却から生じる費用が海上運賃に含まれています。この条項の目的は、「汚染者負担」原則に従って、傭船者が航海に必要な排出枠を船主に支払うことです。排出制度を準拠し、排出枠を償却する責任は船主にあります。

傭船者による傭船契約違反により、船舶が予想よりも多くの排出を償却する状況では、(c)項により、船主は傭船者から「[これらの]排出枠の償却から生じる費用」を回収することが認められています。この文言は、排出枠費用そのものを超える費用を意味すると解釈される可能性があります。このような状況の例として、傭船者による傭船契約違反により船舶が停泊している場合が挙げられます。

3) ETS – Emission Scheme Surcharge Clause for Voyage Charter Parties 2023

BIMCO ETS – Emission Scheme Surcharge Clause for Voyage Charter Parties 2023の下で、 航海の排出枠を償却する費用は、 Emission Scheme Surchargeとして傭船者から船主に支払われます。排出制度を準拠し、排出枠を償却する責任は船主にあります。

当事者は、(a)項にEmission Scheme Surchargeの相互に合意した金額を挿入するものとし、(a)項が空白のままの場合、既定値はありません。

この条項には、バンカー調整係数（BAF）がバンカー市場の変動にどのように対処するかといったような、排出枠のスポット価格が変化する場合の価格調整を可能にする選択肢の(g)項も含まれています。

傭船者がEmission Scheme Surchargeを支払わない場合、(e)項では、これが海上運賃の不払いと同じように扱われることを規定しています。

この条項には、((d)項にあるものの） ETS – Emission Scheme Freight Clause for VoyageCharter Parties 2023 (c)項に相当する文言も含まれており、そのため、(c)項に関する上記の見解ががここでも当てはまります。

4) ETS – Emission Scheme Transfer Allowances Clause for Voyage Charter Parties 2023

この条項は、BIMCO ETSの航海用船条項の3番目であり、排出枠の譲渡を扱っています。

この条項に基づき、航海傭船者は排出枠を船主に譲渡し、同様に船主は必要な数の排出枠を償却する責任を負います。

この条項では、次の2つの選択肢を規定しています：

(i) 当事者は、貨物の期限が到来する日(運賃の分割払いの場合は、全額または初回支払い金のいずれか)、または積地港から出港してから指定された日数以内(既定は14日)のいずれか早い方までに譲渡される合意された排出枠数を挿入します。この選択肢が選択された場合、合意された排出枠数は調整の対象になりません。

(ii) 船主は、遅くとも乗船初日までに、その航海の予想排出枠量を傭船者に書面で通知するものとします。排出枠は貨物の期限が到来する日(運賃の分割払いの場合は、全額または初回支払い金のいずれか)、または積地港から出港してから指定された日数（既定は14日）のいずれかの早い方までに譲渡される必要があります。船主には、貨物の荷揚げが完了してから指定された日数（既定は14日）以内に、その航海における実際の排出枠量を傭船者に通知する義務があります。実際の排出枠量が船主が提示した推定値より多いか少ない場合、その差額は傭船者から船主に、またはその逆に譲渡されます。もう1つの注意すべき点は、この条項には「航海」の定義が含まれており、その中に当事者が指定された積地港、荷揚港、およびバラスト港湾/場所を挿入していることです。当事者がこの挿入を怠った場合、既定の考え方では「航海」とはバラスト航海や積荷を積んだ区間を含む、傭船契約に基づいて船舶によって実行される航海または輸送を意味するものとします。したがって、当事者がバラスト港湾/場所の除外を希望する場合、またはバラスト区間の一部のみを含めることを希望する場合は、これを挿入する必要があります。船主による予定排出枠数の計算は、「航海」として定義される内容に基づいて行われるため、これは重要です。

傭船者による傭船契約違反により、船舶が予想よりも多くの排出を償却する結果となった場合、同条項(c)により、船主はより多くの排出枠を償却することで発生した費用を傭船者から回収することが認められています。

また、(e)項では、傭船者が排出枠の譲渡を怠った場合、これを海上運賃の不払いと同様に扱うことを規定しています。

BIMCOによる上記の新しい条項は、間違いなくメンバーの助けとなることが期待されます。

BIMCO ETS条項およびガイダンスノートへのリンクは以下にあります：

NorthStandardによるメンバーへのサポート

NorthStandardは、脱炭素化のあらゆる側面を進むメンバーの皆様を支援するために対応致します。 当クラブには、傭船契約の条項に関して船主および傭船者メンバーに定期的に助言を行う専任の「Navigating decarbonisation」専門知識チームを含め、豊富な知識と経験を備えています。

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